日本だけ?クリスマスにケンタッキーでチキンを食べるのはなぜ?――まるで常識のように感じるこの光景には、「日本独自の文化的背景」そして「巧みなマーケティングの仕掛け」がある。そこには単なる偶然や流行ではなく、長年にわたる企業のブランディング戦略や、人々の生活様式の変化を取り込む姿勢が反映されているわけだ。しかも驚くべきことに、「クリスマスにチキンを食べる」というライフスタイルは今や“当たり前”になりつつある。その根底を深掘りしていくと、日本市場特有の文化的心理、そしてKFC(ケンタッキーフライドチキン)が築き上げた物語と一貫性のある施策が浮かび上がってくる。
私自身、マーケティング畑で長年活動していると、昔ながらの「なぜそれが当たり前になったのか」を振り返る機会はなかなか多くはない。だが、その“当たり前”に疑問を投げかける姿勢こそが、新たな視点やビジネスチャンスを生み出す第一歩だと考えている。だからこそ今回は、「クリスマスにケンタッキーでチキンを食べる」という日本ならではの現象について、じっくり深掘りしながらマーケティング視点で紐解いてみたい。その先には、我々が新規顧客獲得を目指すうえでも応用可能な“知見”がいくつも隠されているはずだからだ。
では、さっそく今回の主張を明確にしよう。
――“日本でクリスマスにチキンといえばケンタッキー”という常識は、企業の長期的なブランディングと日本特有の文化背景が組み合わさった結果として生まれた。当初は決して当たり前ではなかったものが、今や国民的習慣にまで昇華しているのは、その背後にあるストーリーテリングとマーケット環境の巧妙なマッチングにほかならない。
まずはこのテーマの核心を探るため、全体を8つの見出しに分けながら解説していく。途中には、海外と日本のクリスマス観の違いや、KFCが取ってきた戦略についても触れながら、どうしてここまで「チキン=ケンタッキー」のイメージが定着したのかを解明したい。最後には、現代のマーケターとして押さえておきたいポイントも含め、結論を再度提示して締めくくろうと思う。
クリスマスにケンタッキーは当たり前?
街中が煌びやかなイルミネーションに包まれる12月。スーパーやコンビニの店頭ではクリスマスケーキやチキンの予約が始まり、多くの人々が「今年のクリスマスはどんなふうに過ごそうか?」と胸を弾ませる。そんなシーズンに「家族や恋人とチキンを囲む」ことが日本では半ば常識的なイベントとなっている。そして、その筆頭にあげられる存在こそ、赤白のストライプのパッケージでおなじみのケンタッキーだ。
外国人観光客がクリスマスシーズンに日本を訪れると、「なぜこんなにケンタッキーが大人気なの?」と驚くケースが少なくない。そもそも欧米ではクリスマスにチキンを食べる習慣はあまりなく、七面鳥(ターキー)をメインとした料理を振る舞うことが多いからだ。ところが日本では、「なぜかチキン=ケンタッキー」という図式が根付いている。この違和感は、海外から見た日本のクリスマス文化の代表例といってもいいだろう。だが当の日本人にとっては「小さい頃から見てきた定番風景」。いわば、昔からそこにあるものとして認識されている。
ここで重要なのは、「海外のクリスマス=ターキー」と「日本のクリスマス=ケンタッキー」という図式を単純に対比するのではなく、「そもそもなぜケンタッキーがここまで市民権を得たのか」という過程を知ることだ。なぜなら、その過程こそが日本市場におけるマーケティングの成功例であり、新規顧客獲得や市場拡大を狙う際の“参考”となるからである。私たちのように新たなチャレンジを行う立場の者にとって、過去に成功を収めているビジネスモデルの背景は黄金の知恵の宝庫と言っても過言ではない。
この習慣の始まり:日本独自のきっかけ
「クリスマスはチキンだ」というイメージはいったい何が発端だったのか。この疑問を解きほぐしていくと、一説には“KFCが1970年代に実施したキャンペーンが大当たりした”ことが大きな要因だといわれている。当時、日本ではクリスマスシーズンに七面鳥を手に入れるのは容易ではなかった。欧米のようにターキーを焼いて祝うという習慣そのものが浸透しておらず、さらに家庭にあるオーブンのサイズや料理の手間なども考慮すると、七面鳥は高嶺の花という感覚があった。そこで「七面鳥の代わりにチキンでクリスマスを楽しんでみては?」という切り口でKFCが広告を打ち出したところ、日本人の嗜好とマッチしたというわけだ。
ここでの興味深いポイントは、当時のKFC側も「日本人がクリスマスを豪華に楽しむためには何がぴったりなのか」をリサーチし、かつ「欧米の文化を日本流にアレンジする」という狙いがあったといわれていること。もしかすると当時は「クリスマスはチキンを囲もう」なんてフレーズも、今のように定着するなど誰も想像していなかったかもしれない。とはいえ、実際に施策を打ち出してみた結果、「これが案外ウケる」とわかれば、企業としてはそのチャンスを逃すはずもない。その後毎年、クリスマスシーズンが近づくたびにTVコマーシャルや実店舗でのプロモーションが展開されるようになり、日本人の意識に「クリスマスといえばケンタッキー」が染みついていった。
このようにして徐々に根を下ろしたこの習慣だが、もうひとつ見逃せないのが日本人の「特別感」を求める気持ちだ。日本で祝われるクリスマスは、宗教的行事というよりもファミリーイベントあるいはカップルイベントとしての色が強い。そして「おしゃれで、かつちょっと非日常的なごちそうがほしい」と考えるのは当然の心理だろう。そこに「おいしそうなフライドチキン」が売り場でズラッと並んでいたり、赤と白のパッケージでちょっとゴージャス感を演出したりする戦略がドンピシャにはまったのだ。
ケンタッキーのブランド戦略とストーリーテリング
ここでいったん、KFCが実施してきたブランディングに目を向けたい。KFCは日本に進出した当初から「カーネル・サンダース」のビジュアルを用いた広告や、店舗前の等身大人形を通して、米国発祥の「本格的なフライドチキン」というイメージを強烈に刷り込んできた。日本人は海外の流行に敏感な側面があるうえ、新しいものや異国情緒漂う商品に憧れを抱く傾向がある。そんな市場に対して、カーネル・サンダースという“アイコン”とともに「アメリカの味」が届けば、“おしゃれで特別感のある外食”としての地位を築き上げやすかった。
さらに、KFCはただチキンを売るだけでなく、「クリスマスにぴったりのパーティーバーレル」という物語を付与することに成功している。現代のマーケティングではしばしば“ストーリーテリング”が重要だと言われるが、その前身ともいえる手法がKFCの長年の手がけの中にある。
- クリスマスに集まってチキンを囲むというワクワク感
- 米国のパーティー風景をイメージさせるパッケージデザイン
- こだわり抜いた秘伝のスパイスで仕上げた本物感
これらのストーリーが合わさることで、「クリスマスにはKFCを食べて楽しい時間を過ごそう」というメッセージが、日本中に広がっていった。いわば企業と消費者が一緒に作り上げた、新たな“ホリデー文化”というわけだ。
日本人の文化心理とクリスマスの過ごし方
ここで重要になるのが、「日本独自のクリスマス観」である。先述のとおり、日本でクリスマスはあくまで「家族や恋人との特別なイベント」という色が強い。欧米では家族や親戚が一堂に会して「長期休暇を過ごす宗教的行事」という側面が大きいが、日本では宗教色はほとんどなく、むしろ華やかなパーティーシーズンとしての性質が前面に出る。
この違いが結果的に、「“ごちそう”の定義」を変えたのではないかと私は考える。欧米の場合、家庭でローストターキーを焼いてグレイビーソースをかけるのは昔ながらの伝統だ。それに対して日本では、もともとターキーという習慣がないし、調理にも手間がかかる。多忙な年末だからこそ「手軽に、そして家でパーティー気分を出せる食べ物」が求められやすい。かといって焼き魚や煮物では少し地味だから、フライドチキンのように“洋風”かつ“華やか”なメニューが欲しくなる。そこにケンタッキーが「クリスマスにぴったりのバーレル」を投入してきたから、日本人のハートをしっかりつかんだのだ。
このことから、我々マーケターが学べるのは「ターゲットの文化的・心理的背景を的確に理解して商品を提供する」大切さである。単に海外の風習をそのまま持ち込むだけでは受け入れられないが、それを日本流にアレンジして“特別感”を演出することで一躍ブームになりうる。クリスマスシーズンにケンタッキーが儲かる仕組みは、実はこの文化的背景をしっかりと踏まえた上での展開だったわけだ。
欧米のクリスマスと日本のクリスマスの違い
ここで改めて、欧米のクリスマスと日本のクリスマスの相違点を整理してみよう。まず欧米においては、クリスマスはキリスト教の重要な祝祭日という前提がある。そのため、家族や親戚が集まってホームパーティーを開き、大切な時間を共有し、協会へ行ってミサに参加するというのが一般的な過ごし方だ。クリスマスの朝にはツリーの下に置いたプレゼントを開ける子どもたちの姿もおなじみで、そこでは食事も「ホームメイド」が基本。特別なローストターキーやクリスマスプディングなど、手間暇をかけた料理がメインを飾る。
一方で日本では、クリスマスはほぼ宗教色を帯びていない。むしろ商業的イベントとして花開いており、イルミネーションを眺めに出かけたり、クリスマスケーキを予約したりと、「気分を盛り上げるための行事」として捉えられる傾向が強い。そのため、ファミリーレストランや外食チェーンも多くのクリスマスキャンペーンを打つ。恋人たちはロマンチックなディナーを楽しみ、家族連れは簡単に準備できるチキンやケーキを囲むのが定番。ここで決定的に重要なのが「手軽さとおしゃれさ」の両立だ。面倒な調理をしなくても楽しめるからこそ、ケンタッキーのフライドチキンが受け入れられたわけである。
欧米と日本ではそもそものクリスマスの意味合いが違う。だからこそ「ターキーではなくチキン」という文化が成立し、そこにKFCがマーケットを確立したと考えれば筋が通る。消費者が求める“便利かつ特別感のある食事”を提供できる企業が、その市場を独占できる可能性を高める。これは「日本のクリスマス=ケンタッキー」という図式が世の中に深く染みわたっている現状をよく示しているといえるだろう。
マーケティングから見るKFCクリスマスの価値
私がとくに注目したいのは、このKFCのクリスマス戦略が「季節行事をビジネスチャンスに変える」好例として、多くのマーケターにとって学びになるという点だ。一般的に、企業が季節性のある商品やサービスを売り出す場合、イベントの盛り上がりに合わせて集客を増やすことは定石である。バレンタインデーやホワイトデーなどの菓子業界、ハロウィンやお正月の関連商品などもすべて同じ路線の考え方だろう。
しかし、日本独自の「クリスマスにチキン」という習慣は、KFCが“その文化を作った”といっても過言ではない点で、さらに興味深い。すでに確立されていた行事に合わせて商品をプッシュするのではなく、“行事そのものの在り方”を新たに創造したというイメージだ。そこにはKFCの強力なブランド力に加えて、人々が「欧米の文化を取り入れてみたい」という願望をうまくくみ取った姿勢がある。
たとえば、今ではスーパーやコンビニ、ローストチキン専門店などもクリスマスシーズンにこぞって「チキン」を売り出す。しかし、そのきっかけを作り、「クリスマス=チキン」というイメージの確立を強力に押し上げたのはKFCの功績といえる。ここからは、私たちのビジネスにおいても「行事やシーズンを、自社が先導して盛り上げる」という視点が得られる。多くの場合、すでにある行事に後追いで参加する企業が多いが、可能であれば自社独自の“新たな文化”を創るくらいの気概があっても面白いと思う。もちろんそのためには、しっかりとしたブランディングやメッセージづくりが欠かせない。
クリスマス商戦での教訓
クリスマスの時期は年間でも大きな商戦期のひとつだ。特に製菓業界や外食産業、そして百貨店やアパレルまで、多くの業種がキャンペーンを展開する。しかし、いくら華やかなイベントであっても、消費者が「どう楽しみたいのか」を理解しなければ、なかなか消費行動につなげることは難しい。
この点、KFCは「家族や恋人と手軽にパーティー感を味わえる食事」という需要を的確につかみ続けてきた。さらに「1年に一度の特別感」を満たす商品ラインナップとプロモーションを毎年刷新しながら、ブランドイメージの鮮度を維持している。これは一見地味なようだが、継続こそがマーケットにおけるポジション確立に欠かせないファクターだと私は感じる。
ここにもうひとつ付け加えたいのが「サプライズの演出」の重要性。KFCのクリスマスCMを見てもわかる通り、ただチキンを売るだけではなく、「家族や大切な人との温かな時間」を想起させる映像や音楽が多用される。それによって、「クリスマスにKFCを買う」という消費行動が、単なる物質的な購買ではなく「心温まるストーリー」にリンクしていく。人は理屈だけではなく、感情に訴えかけられて購買を決断することが多々ある。そこにブランドが介在することで、“クリスマスにKFCがないと物足りない”という心理を醸成していったのだ。
未来への視点:新たな可能性
さて、ここまで「クリスマスにケンタッキーを食べる」現象がなぜ日本でこれほど定着したのかを、文化・マーケティング・ブランド戦略の面から考察してきた。結論としては、KFCの長年の戦略と日本市場特有の心理、そして“新しいお祭りを作り出す”くらいの積極的な姿勢が、この習慣を国民的なものへと成長させたといえる。
一方で、今後の日本における消費動向を見据えると、新しいスタイルのクリスマスの過ごし方が生まれる可能性もある。たとえば最近は、外食ではなくウーバーイーツなどのデリバリーを駆使して、好きな店の料理を自宅で堪能する層が増えている。そこではケンタッキーに限らず、多様な選択肢が存在するようになった。また、健康志向の高まりによって、フライドチキン一辺倒から離れてサラダやローストチキンなどを手に取る人も増えている。さらにクリスマスをイベントとして祝わない層や、そもそも海外旅行へ出かける層など、人々のライフスタイルの多様化も進んでいる。
それでも、「日本のクリスマス=チキン」というイメージは今後もそう簡単には揺らがないだろう。なぜなら、それだけこの商習慣が強固な地位を築いているからだ。ある意味、「クリスマスは何となくチキンにする」という暗黙の了解が既に根付いている。したがって、ライバル企業やスタートアップ、他業種の事業者がここに参入しようとするならば、“どこを差別化のポイントにするか”が鍵になる。KFCが何十年もかけて培ったブランドイメージに挑むには、単に「似た商品」を出すだけでは太刀打ちできないだろう。たとえば地域限定の食材や健康路線、あるいは徹底的に高級感を打ち出すなど、まったく新しい物語の構築が求められる。
マーケターとしての視点
ここまでの論を総括すると、「日本でクリスマスにチキンを食べる習慣は、企業がつくり上げた文化であり、そこには長期的なブランディングと巧みなマーケティングが絡み合っている」というのが私の最終的な見解だ。もちろん、その根底には“日本人がクリスマスをどう楽しみたいのか”という文化心理も横たわっている。この両方がかみ合ったからこそ、「クリスマスといえばケンタッキー」というほどの国民的認知が生まれたのだ。
だが、この一見シンプルに見えるスキームの裏側には、企業による市場開拓や、新たな消費行動を誘発するための地道な努力がある。マーケティングの世界では「顧客の当たり前を変える」ことがしばしば飛躍につながるが、それは一朝一夕で実現するものではない。KFCがこのポジションを築いた背景を振り返れば、継続的な広告展開、子どもの頃から刷り込まれるイメージづくり、季節限定品を用いたストーリーテリングなど、一貫した取り組みが脈々と続いていることがわかる。
そして、このように「ひとつのシーズンや行事を自社の独壇場にする」ことは、何もケンタッキーだけができるわけではない。我々マーケターや事業責任者としても、「社会や文化が変化するタイミング」を捉え、その中で消費者とどのように新しい関係性を築けるかが勝負の分かれ目になる。たとえば、デジタルシフトが進む現代では、オンラインをフックにした顧客体験の創出や、SNSを活用した“コミュニティ”の形成も大きな力を発揮するかもしれない。また、消費者の感度が高まっているSDGsやエシカル消費の観点から、「環境に配慮したパーティーフードを提供する」という路線での新たなマーケティングも考えられる。
要は「当たり前を覆す」ことを恐れずに、むしろ積極的に仕掛けていくことだ。KFCが「クリスマスにチキンを食べるという習慣」を日本に根付かせたように、私たちも自らが手がけるビジネスで“新しい当たり前”を創ることができれば、それは何ものにも代え難い強みになる。かのアルバート・アインシュタインが語ったという“複利の力”になぞらえていえば、小さな仕掛けを粘り強く続けていくことで、いつの日か大きな変革を起こせるかもしれない。そこに必要なのは、一貫性あるブランド戦略と、顧客の潜在的な欲求をくみ取るマーケティング視点の両立だ。
最後にもう一度強調したいのは、今回の「クリスマスにケンタッキーでチキンを食べるのはなぜ?」という問いに対する答えは、単に「KFCの宣伝がうまかったから」という短絡的なものではない、ということだ。むしろ深掘りしていくと、日本独自の文化的背景、クリスマスの位置づけ、家庭での食卓事情などが絡みに絡んだうえで“KFCが仕掛けたブランド戦略が成功した”という結論に至る。私としては、このプロセスこそがマーケターにとっての最大の学びだと思う。
もしも、この視点をヒントとして、自社の商品やサービスを「いつ、どのように、だれが、どんな気持ちで使うのか」を考え直すきっかけにしてもらえるなら、これほど嬉しいことはない。そして最終的には、「自社ブランドを季節行事や年中行事と結びつけ、消費者の生活に深く根付かせる」ことこそが、大きなブレイクスルーに繋がる可能性を秘めている。KFCの事例はまさにその証左といえるだろう。
――以上が私が示す「日本だけ?クリスマスにケンタッキーでチキンを食べるのはなぜ?」への考察と、マーケティング的な視点からのまとめである。もしあなたのビジネスでも、新たな行事を生み出したり、市場の“当たり前”を書き換えたりするプランを考えているのなら、ぜひご相談いただきたい。私たちはデジタルマーケティングや広告戦略、そしてLINEによる顧客とのコミュニケーション施策を通じて、新しい文化や習慣を作り出すためのお手伝いをしている。長期的に“市場の空気”を変えていくには、それ相応の覚悟と戦略が必要だ。だが、それをやり遂げた暁には、かつてのKFCがそうであったように、あなたの企業が業界の潮流を塗り替える大きな可能性を手にすることだろう。